台湾の思い出  聞いてないよの連続  出張という名の一人旅 3

「 hello every one ! 」

笑顔を作り、大きな声で挨拶

シ~ン。。。。

あれ?
返事がない。。。
返事がないどころか笑顔すらなく、ただ黙ってこちらを見ているだけ。

しばらく見つめ合ったまま静寂が続く。
そして、何事もなかったかのごとく仕事を再開する現地の人々。。。

「ドウゾ」
工場の社長サイさんが私を誘導し、工場隣にある自宅へ案内してくれた。

大きな広い家。
さぞかし儲かっているのだろう。

大広間に通され、大きなソファーに座るよう促された。

外の暑さとは違い、ひんやりとした室内。

「ドウゾ」
サイさんがテレビをつけてくれた。

「ドウゾ」
次いでお茶を出してくれた。

小さな器で出された中国茶がとても美味しかった。

サイさんがテレビのリモコンでチャンネルを次々と変えていく。

突然、画面からは日本語が聞こえてきた。
サイさんが画面を指さし、笑顔でうなずく。
多分、「このチャンネルでいいですか?」と聞いてくれている。

「 ok ok」
笑顔で答える。

リモコンを手渡してくれ、「好きなチャンネルに変えて良いよ」と言って
くれている(のだと思う)

ソファに横たわりながらお茶を飲み、テレビを見る。
のんびりしててアジア感満載。。。。いやいやいやいや、俺、仕事に来た
んだよ。

サイさんと話がしたい。
工場に英語を話せる人がいるハズだと思い、サイさんに「english english」と
話しかけるが、サイさんは両手を広げるだけ。
うわぁ、englishさえも通じない。

工場の方へ指を指し、仕事場に行きたい意思表示をしてみたら、サイさんが
立ち上がった。

2人で工場へ戻る。

再びスタッフさん達の元へ歩み寄り、「誰か英語が話せる人はいませんか?」
と聞いてみるも、相変わらず笑顔はなく、こちらを見つめるだけ。

出張を命じられた際、専務が「英語は話せますよね?なら大丈夫」なんて会話、あれは一体何だったのだろう。。。

そうだ、台北オフィスのテイ社長が「現場には日本語を話す女性がいますから、
安心して下さいね」と言われたな。

そこで「日本語が話せる人はいますか?」と聞いてみた。

大きな身体のあばさんが小さく手を上げた。
良かった~。
仕事が出来る。

そのあばさんに日本語で話しかける。
あまり上手ではないけど、会話は成立する。

以前、日本人と結婚し日本に住んでいたのだが、その後離婚。
台湾に戻ってきたらしい。

「僕の言う事を翻訳して下さい」
「はい、大丈夫」

まずはサイさんに仕事の状況や今後の予定、問題点があれば話して欲しいと
あばさんに伝えた。。。。だが、おばさんの日本語能力はかなり低下してし
まっており、全然通訳出来ないのだ。

挨拶や天気の話などは問題ないのだが、仕事の事やちょっと難しい話になると全く会話が成立しなくなってしまう。

英語が通じない。
日本語が通じない。

これ、どうやって仕事すれば良いの????

つづく

台湾へ 初めの1歩 出張という名の一人旅 2

台湾の田舎町 竹南

さて、いよいよ工場へ!
と思ったその矢先、

「台北から通う? それともこの町に住む?」と上司

上司曰く、竹南は何もない町。
こんな町にいたら気分転換も出来ない。台北から通った方が良い。

しかし、台北からは電車で1時間半。
台湾に来てまで長距離通勤なんてしたくなかった。
それに竹南という田舎町。
どこか懐かしくて、のんびりとしていて。。。気に入ってしまったのだ。

「この町に住みたいです。ダメですか?」と聞くと

「君がそうしたいならそうしなさい。じゃあホテルを探そうか」

台北オフィス社長のテイさんが工場社長のサイさんに良いホテルがないか
聞いてくれた。

が、田舎過ぎてホテルがない。

ちょっと歩いてみようということになり、散歩がてら町を歩いてみた。

駅前でさえ質素で、周辺に繁華街さえない。

ただ、ホテルとは言えないけど宿泊施設の看板が数軒目に入った。
旅社だ。

オンボロな建物。
昼だというのに怪しい雰囲気が漂っている。
夜はかなり危なそうだ。

「こんなところしかないよ。やはり台北から通った方が。。。」という
上司に
「いや、ここで十分ですよ」と私。

「本当?まぁ、君がそう言うなら。。。ちょっと部屋だけ見てみよう。
判断はそれから私が下します」と上司もなかなか了解してくれない。

旅社のひとつに入り、部屋を見せてもらった。

小さな部屋で冷蔵庫、エアコンにテレビがある。
シャワーとトイレはあるけど、分かれていない。

お~、面白そうだ~
ここ、ここでいい!
もうここに住むことにした!

そう思った瞬間、上司から「ダメ、危ないよ。会社として君をここに住まわす
事は出来ません」

が~ん!
せっかくアジアに来たというのに。。。

台北から通いかよ~と気持ちが萎えそうになった。

そのとき、工場社長のサイさんが何かを思いだしたように話し始めた。

どうやらホテルが1軒あるのを思い出したらしい。
旅社ではなくホテル。
それもとても綺麗なホテル。

綺麗なホテルじゃ面白くないけど、この町に住めるならそれでもいいかな。

上司に「そのホテルを見て、もしダメなら台北から通います。判断をお願い
します」と伝え、そのホテルを見に行くことに。

汚い旅社から数ブロック先にそのホテルはあった。

駅からも近い。

10階建てのビルの9階と10階がホテルになっていた。
8階から下は全てオフィス。

立地も悪くない。
エレベーターでエントランスのある9階へ向かう。

エレベーターのドアが開くと受付の女性が2人立っていた。

宿泊費は1泊5千円ほど。

どうやら日本でいうラブホテルなのだけど、綺麗だし、毎日掃除もしてくれる。

上司からも了解を得られた。

寝床が決まり、いよいよ工場へ!

そのとき上司が「あっ、時間がなくなった。我々は台北に戻らなくてはいけないんだけど、一人で大丈夫だよね?」

「はい。でも、私は工場で何をすれば良いのですか?仕事の内容をまだ聞いてないのですが。。。」

「朝起きたら工場に行き、彼等が作る商品の品質管理。それだけだから出来るよね?」

いやいやいやいや、出来るけど、何をどう管理するのか?現地工場との取り決めなどはないのか?

上司に聞いたところ、
そんなものはない。
昨年もこの工場に発注して問題なかったから仕事は簡単だよ。
そんな答えだった。。。。

これって仕事って言えるの????

上司と台北オフィスの人達は車に乗り込み、台北へ戻ってしまった。

残された私と工場の社長サイさん。

優しい笑顔で車に乗るよううながすサイさん。

「謝謝」と唯一しっている中国語で答え、サイさんの車に乗る。

ホテルからは車で約5分。

田んぼに囲まれた小さな工場に到着。

よっしゃ~、いよいよ仕事だ!

サイさんの案内で工場の扉を開ける。

天井からはプロペラのような送風機がクルクル回り、ラジオからは中国語
(台湾語だった)の放送が流れている。

私とサイさんが到着するのを見て、工場で働く人達がこちらに視線を送って
くる。

彼等と働くことになるのだから、まずは仲良くなろう!

普段より大きな声で「hello every one ! 」と笑顔で手を挙げた。

つづく